IT導入を生業としていない国内企業の多くは、企業システムというかITにほとんど関心がありません。
ITに関心がないため、いつまで経っても企業内の情報システム部門に力を注がないことが多いです。
そんな状況を打開しようとSIerからユーザー企業へ転職する同僚もいますが、情報システム部門の権力がなく、思ったような成果をあげられていないという話を聞きます。
このような状況にあるため、国内ではSIerというITシステム導入を生業とする企業が成り立っています。
餅は餅屋のとおりITシステムを導入するなら自社の情報システム部門ではなくSIerに委託すれば良いという話で私は飯のタネを得ております。
この状況は国内企業にとって健全な状態ではないと思ってはいるものの必要とされている以上は最大限の能力を発揮することにしています。
さて、前置きが長くなりましたが、SIerはITシステム導入のプロとして基本的には顧客企業のためになるシステム導入の提案をしております。
どのように顧客企業のことを考えているかを提案前の確認事項として説明します。
主な提案前確認事項
SIerは自社でサービスを持っていて顧客の要望にあうサービスを提案することもあれば、顧客の要望にあわせたオーダーメイドシステムを構築することもあります。
いくつかのサービスを組み合わせて顧客の要望に合わせることもします。
このような提案をする前に以下のような項目を確認します。
- システム導入目的(現状の課題)
- システム導入時期(いつから使いたい)
- システム導入予算(いくら出せるか、予算は確保されているか)
- 現行システムの状況(周辺システムも踏まえて)
- システム導入方針(セキュリティポリシー、オンプレ、クラウド、資産 or 経費)
- システム導入体制(顧客企業側の協力体制)
- システム運用体制(自社運用・外部委託)
私は最低限上記の7点をなるべく詳細に確認することにしています。
既存顧客であればいくつかの状況は把握しているため、毎回全てを顧客企業に確認せずとも手元の情報で当該顧客に合うシステム提案をすることができます。
では、各々の項目についてもう少し掘り下げます。
1.システム導入目的
いつも本ブログにも記載していることですが、システム導入の目的が明確でない場合は私は自社に売りたいサービスがあったとしても無理な提案はしないことにしています。
潜在的に顧客企業に自社サービスが適用できる課題があると考えられる場合は、課題の掘り起こしをすることもあります。課題の掘り起こしをする際も顧客企業側に課題を認識してもらい、その課題解決の方法の一つとしてシステム導入が必要だと認識してもらうことが私の目的です。
なぜシステム導入の目的を確認するのか。それはシステム導入の目的がすべての始まりになるからです。
目的がない場合はその後の項目も決まらないため、まずは目的意識を共有することを大前提とします。
そして、システム導入の目的が不明確なまま案件を進めるとほとんどのケースで失敗します。これはシステム開発にかかる期間が相応に長いため、システム導入の途中で目的を見失って戻るべき軸がなく、フラフラしてしまい失敗するのです。
2.システム導入時期
システム導入目的が定まれば、それ以外の項目は導入するシステムの前提(サイズ)を決めていく項目になります。
システム導入時期は、システム導入目的に対応するシステムを導入するまでの期間をどれほど確保できるかを確認するのが目的です。
顧客企業は既にシステム導入目的を明確にしているため、課題認識があり、なるべく早くみたいな要望を出してくるでしょう。
しかし、システム導入時期はシステム導入目的にかなうシステムを導入するために十分な時期を確保するように交渉することになります。
顧客が急いでいるからといって、無理な要求を受けても自社の開発要員をすり減らすだけで良いシステム開発はできません。
従って、顧客が急いでいる場合には、システム機能を分割して段階的に導入していくということも検討します。
3.システム導入予算
仕事として受託する以上は、対価を得る必要があります。
SIerは商慣習としてこの対価をシステム導入にかかる作業工数(人月)で見積もり、ここに自社の人件費単価を乗じて見積もりする手法を取ることが多いです。
システムに詳しくない顧客企業はSIerから提示された作業工数が適正なのかを判断できないため、複数のSIerに提案依頼をして見積もりの比較(相見積もり)をします。
相見積もりは顧客企業側の作業負荷が相応に高いですし、相見積もりを取ったとしても安かろう悪かろうになる可能性が排除できません。
顧客企業は信頼できるSIerを見つけるか自社で見積もりを判断するための指標を確立すべきでしょう(見積もりできる技術者の採用も一つの解決策)。
システム導入の目的が明確化したタイミングではその目的を達成するための費用について検討がついていないでしょうから、システム導入予算は確保されていないことが多いです。
顧客企業の予算確保手続きによるでしょうが、システム導入にはそれなりの期間と費用がかかるため、システム導入提案を行い、まずは予算確保からはじめてもらうことになります。
予算確保して、システム構築をしてという長い時間を経ることで当初の目的が風化してしまうこともあるため、目的達成の緊急度は常に意識しておく必要があります。
目的がすぐに風化するような場合には即効性のある提案が求められます。
4.現行システムの状況
システム導入の目的を達成するために、既に顧客企業が利用しているシステムを有効利用できる可能性もあるため、現行システムの状況を確認しておく必要があります。
現行システムを有効利用することで、少しでもシステム導入費用を削減できないかを検討します。
また、現行システムの状況を確認することである程度顧客企業のシステム導入方針がわかります。
明らかに現行システムが新規システムと関連ないと思っても顧客企業のシステム導入方針を把握する上で、現行システム状況は確認すべきです。
5.システム導入方針
顧客企業に合ったシステム導入をするためには、顧客企業のシステム導入方針を確認しておくべきです。
その上で時代に合わないシステムを利用していると考えられるのであれば、システム導入方針の変更も踏まえて提案することになります。
ただし、予算は無限にあるわけではないため、提案(導入)の際には優先順位を顧客企業と打ち合わせて決めた方が良いでしょう。
現行システム状況を確認すれば過去にどのような方針で(方針がない場合もありますが)、システム導入されたかがわかるため、システム導入方針がわからないとかシステム導入方針がないと顧客企業担当者が説明した場合でも現行システムの状況は確認した方が良いでしょう。
顧客企業はシステムに興味がないため、わからないというか自社のシステム導入方針を知らないし、知ろうとしていないし、自社の情報システム部門やシステム管理部門に問い合わせないと考えた方が良いです。
時代に合わないシステムというのは、単に流行りものを入れるということではありません。セキュリティ対策などの非機能要件に対する考え方を理解しておく必要があるのです。
安全・安心に企業システムを利用してもらう上でシステム導入方針は常に確認しておくべき事項となります。
6.システム導入体制
システム開発をするのはSIerとなりますが、システム導入をSIerに委託したとしても顧客企業側で何もしなくとも良いわけではありません。
顧客企業はシステムに求める要件をSIerに提示してもらう必要がありますし、SIerが開発したシステムを有効に利用するためにシステムリリース前にテストや新規システム利用研修に参加してもらうなど多くの協力をしてもらう必要があります。
顧客企業の協力が得られないシステム導入の多くは失敗するため、この点の確認も必須となります。
7.システム運用体制
SIerが構築した後、システムをどのように運用するかを確認しておく必要があります。
システムは導入して終わりではなく、利用をして問題があれば改善していくことでシステム導入の効果が最大化されます。
つまり運用体制が明確に定まっていない状態でシステム導入をすると結局システム導入の効果が得られずに高い導入費用だけを支払って効果が少ないシステムを手にしてしまうリスクが顧客企業にはあるのです。
このリスクを回避するためにシステム運用体制についてもあらかじめ確認しておいた方が良いでしょう。
実際のシステム運用体制の組成はシステムリリース前でも構いませんが、コンセプトは事前に把握しておき、そのコンセプトが達成できるように顧客企業とシステム開発中も調整していく必要があります。
まとめ
7点のシステム提案前の確認項目を説明しましたが、一番重要なことはいつも書いておりますがシステム導入の目的を明確にすることです。
システム導入の目的は業務課題の解決が主であり、システム導入自体が目的にならないことに注意が必要です。
しっかりとしたシステム導入目的があれば、その目的達成のためにかけられる費用(導入した後の効果)についても顧客企業は定めることができるでしょう。
目的を明確にしても、これにかける費用が算出できない場合には検討が足りないと考えた方が良いでしょう。
ただし、顧客企業内に経営活動に必要な計数を確認する術がない場合には、まずこの計数を把握するシステムを導入することは唯一システム導入を目的としても良いケースになりえます。
この際には、当該システムを利用して把握できる計数が今後顧客企業にどのような価値を生み出すかを説明しましょう。
いつもシステム導入の目的に立ち返り、その他の確認項目がシステム導入の目的と関係しているかを確認することで顧客企業にとって最適な提案をすることができます。
SIerはITのプロとして顧客企業に最適な提案をしようと考えています。
顧客企業は、自社の状況をみつめてSIerの7つの確認事項に応えてくれることを期待します。(実際、応えられない顧客企業担当者が多いので、SIerが7つの確認事項を引き出すことが多いです。)