Workers Wind

主に私の仕事に関する考え方と自分の知識・スキルを習得するために読んだ本、調べたこと、実施した結果などについて記載しているブログです。

SIerとしての矜持はあるがそれを発揮するかは顧客次第

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日経クロステックの名物コラム「木村岳史の極言暴論!」に気になる記事がありましたので、私の考えについて記載します。

気になった記事は以下になります。

 

xtech.nikkei.com

「お客さまが考えを改めていただかないと、私どもではどうしようもない」は論理的には正しい。SIerらにお金を払ってシステムを構築・運用する主体が客である以上、その客が意思決定してくれない限り、ITベンダー側で勝手に動くことはできないからだ。だが客が間違った決定を下した場合、ITベンダーとしての責任はどうなのか。もう少し細かく述べると、SIerの経営者、あるいは技術者や営業担当者としての責任はどうなのか。

本記事の大意は、顧客が役に立たないシステムを導入しようとしている時に、SIerはITプロフェッショナルとして顧客の考えを正して、役に立つシステムを導入するように顧客を導くべきということになります。

この木村氏の考えに対して、SIerは口をそろえて「お客さまが考えを改めていただかないと、私どもではどうしようもない」と言うということです。

 

これに関する私の考えは、提案段階では多くのSIerが顧客にとって役に立つと考えるシステムを提案しているということです。

そして、真に顧客のためを考えた提案は多くのケースで採用されていないということではないかということです。

その結果として、木村氏が言うような事態が起きてしまっているということです。

 

そういったことを繰り返してきたSIerは顧客に対して少し諦めてしまっているのかもしれません。

本件についてもう少し、システム開発の流れに沿って考えていきましょう。

 

 

要件に基づいた開発

そもそもSIerは、自社パッケージの開発でない限りにおいて、基本的には顧客要件に基づきシステム開発をします。

要件定義フェーズにて、顧客要件を整理して、基本設計フェーズにて要件をシステム化するための設計をします。

この流れに沿って考えた場合に、顧客要件がシステム化するにはそのままでは技術的、予算的、時間的などの理由により困難な場合は要件の調整をします。

多くのケースにおいて、顧客の無理な要件により時間的、予算的余裕が食いつぶされた場合の調整方法はスケジュールの延長や予算の積み増しではなく、要件の削除となります。

従って、システムが出来上がる際には顧客要件を実現していないシステムが出来上がるのは道理です。

この要件調整の際に、スケジュールの延長や予算の積み増しによる調整が可能となれば、顧客要件を実現したシステム開発ができるのです。

なお、技術的に困難な課題はよほど荒唐無稽な要件でない限りは解決できるケースの方が多いです。

 

提案段階で既に妥協がある

前述したようなスケジュールの延長や予算の積み増しが行われないのは、提案段階で既に妥協があり、十分なスケジュールと予算が確保されない提案がなされるからです。

 

誰の妥協なのか。

 

これは、顧客とSIer双方に妥協があるのです。

顧客はすべての要件を経営者や利用部門ユーザからヒアリングして取りまとめることを妥協して、顕在化している要件のみを拾い上げてSIerにニーズを伝えます。

SIerは顧客が妥協した産物の要望書を基に提案プランを検討するのです。

この際に、気の利くSIerであれば要望の深堀をしますが、深堀した結果で提案した場合には顧客の想定しているスケジュールや予算を大幅に超過した提案となるため、顧客の要望書に沿った提案をしてきた競合SIerに提案で負けることになります。

そして、前述した要件定義フェーズや基本設計フェーズによる要件の追加に対応できなくなり、競合SIerも真の意味で要件を取り込んだシステム開発が行えなくなるのです。

 

システム開発には時間もお金もかかる

前述したような状況は、誰も幸せにしていません。SIerは顧客の要件を満たしていないシステム開発をしていることに気づいています。

しかし、スケジュールや予算の制約があり、システム開発を請け負っている以上は当初の足りない要件の範囲でSIerはシステム開発するしかないのです。

SIerとしては、お客さまにはシステム開発には時間もお金もかかることを理解してほしいのです。

多くのSIerはお客様にとって良いシステムを開発したいと考えています。

しかし、時間とお金に厳しい制限を設けられた場合は、顧客のためではなく自社のためにプロジェクトを完遂することに力を注ぐことになります。

そして、当該プロジェクトの成果は単にシステムリリースをしたというだけになってしまうのです。

稀に成功するプロジェクトは、時間、お金、それに基づき集まった優秀なSE集団により実現するのです。

現状のやり方を繰り返しているだけでは、お客さまもSIerも疲弊していくだけです。

 

システムの価値を正しく認識すべき

前述してきた不幸なシステム開発の状況を打開するためには、顧客とSIerの双方が新たに開発しようとしているシステムの価値を提案前の段階で正しく認識する必要があります。

システムの価値とは、当該システムが稼働をはじめた際に顧客にどれだけの金銭的価値を生み出すのかを設定するのです。

並行してSIerはシステム化するための費用を見積り、顧客は出てきたシステム化費用と設定したシステム稼働による金銭的価値によりシステム化を実行するかを判断するのです。

そして、顧客とSIerがパートナー関係を築くには、顧客はSIerにはまず見積りにかかる対価も支払うべきです。

SIerも顧客に見積りにかかる対価を請求すべきです。

全てのSIerが顧客に見積りにかかる対価を請求するようになれば、より良いシステム開発ができるようになると確信しています。

 

システムの見積りとは相当にコストがかかる行為なのですが、多くのSIerは提案作業の一環として顧客に請求していないのです。

しかし、実態としては受注後のシステム開発費用に見積費用も含まれるので総じてシステム開発費用も高くなるのです。

競合がいる場合には負けたSIerは見積費用を回収できないことになります。

顧客がシステムに関する見積もりを正しく評価できないために、無駄に相見積りにかけられるSIerは不幸でしかないでしょう。

そんな見積りがまともなわけがなく、無用にリスクを取って高い費用の見積りを提示することになっていくのです。

このSIerの姿勢に問題はありますが、ビジネスを自社の利益を考えて行う商行為と設定すればSIerは自社が損をしないように無知な顧客対応をするための対策を講じているため、本極言暴論で語られるようなビジネスの素人ではないのです。

 

なお、誤解がないように記載しますが私が勤める会社も含めて多くのSIerは顧客のためになるシステム開発をしたいと考えており、提案段階の見積りを無償で対応したり、顧客の顕在化していない要望をくみ取ろうともしています。

しかし、多くの顧客がこの姿勢を理解せずに無駄な相見積りを取ることをやめず、システム開発が上手くいかないことをSIerのせいにするのです。

このような状態が続いたことによりSIerは「お客さまが考えを改めていただかないと、私どもではどうしようもない」という発言が出るのです。

 

まとめ

システム開発の世界は、その身を投じてみないとなかなか理解が難しいものです。

ハードウェアは目に見えますが、システムは目に見えません。

そして、自分で開発したことがなければ、何故システム開発にこれほどの費用がかかるのかも理解できないでしょう。

従って、顧客企業はシステム開発にかかる費用については一旦考えない方が良いでしょう。

顧客企業は要望のシステムが導入された際の金銭的価値をベースにモノを考えるべきです。

顧客企業はシステムの投資対効果を当然検討していますが、ほとんどのケースでは絵にかいた餅になっています。全体のシステムというよりは要望機能毎に把握するようにすべきなのだと考えています。

それが機能の優先度となるのです。

機能毎の金銭的価値を正しくSIerに伝えれば顧客とSIerの関係も大きく変わってくると思います。

顧客は業務のプロ、SIerはシステムのプロ。お互い妥協せずにプロフェッショナビリティを意識したパートナー関係を築きたいですね。

 

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