Workers Wind

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官公庁案件におけるシステム調達の仕組み

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給付金事業で経産省がサービスデザイン推進協議会に発注し、サービスデザイン推進協議会が電通に再委託し、電通がパソナに再々委託しということが問題になっていますが、この構造は今回の給付金事業に関してのみで起こっているわけではありません。

news.yahoo.co.jp

サービスデザイン推進協議会がメディアが言っているように実態のない企業体であれば別の問題がありますが、官公庁系の大規模案件が多重下請け構造になるのは、それなりに理由があります。

その点も踏まえて官公庁案件におけるシステム調達の仕組みを説明します。

官公庁案件は入札して落札しないと遂行できない

まず官公庁案件においては、通常の企業のように飛込み営業をして良い商品・サービスであれば購入してもらうというような営業はできません。

政府調達のルールとして、案件の入札説明を実施して入札に参加する企業を募り、入札参加企業の提案を評価して、もっとも条件に適した会社が選定されます。

この方式を競争入札方式と呼びます。

 

競争入札方式には、提案内容と提案金額などを総合的に評価する総合評価方式と価格だけで評価する最低落札価格方式があります。

 

また、競争入札にならないケースとして入札案件を遂行できる会社が合理的に判断して1社しかいない場合(特許などの特殊な技術を持っている。既存の延長案件で他社に依頼すると相応の費用がかかる場合など)は、随意契約として競争入札とならないこともあります。

 

競争入札方式、随意契約方式のいずれの方式であっても官公庁案件であれば官報に契約情報が掲載されますので、どこの会社が何の案件をいつ、いくらで落札したかを確認することができます。

 

原則再委託は禁止

官報で落札会社を確認することはできますが、落札会社が再委託をしているかどうかを確認することはできません。

ただし、官公庁案件は政府の基本的な契約書のひな形を利用しているため、原則再委託は禁止となっています。

しかし、事前申請すれば再委託をすることは可能なケースが多いです。

そして、この再委託が悪いもののように捉えられていることが多いですが、人海戦術で取り組むような案件である場合には、自社の社員だけですべての人員を賄うことは現実的ではないため、多くのケースで再委託となります。

今回の給付金事業を例にとればサービス推進協議会の必要性は別にして、業務として多くの人員を必要とするような内容であると考えられるため、電通以下の企業の再委託としての参画はそれほどおかしな話ではないのです。

 

また、再委託、再々委託として参画する企業も各々利益を確保する必要があるため一社で業務を受託することができない以上は多額の費用がかかることはやむを得ないのです。

要は、当該落札価格が妥当かどうかを正当に判断できる仕組みが存在しない以上は依頼した価格が適正であると判断するしかないのです。

 

原則請負契約で損害賠償は青天井

最後に官公庁の調達案件において、もう一点説明しておきたいことがあります。

それは、官公庁案件では原則請負契約となり損害賠償条項は青天井の契約書を締結する必要があるということです。

システム調達案件においては、上下分離のルールというものもあり、要件定義を実施した企業と設計・開発以降を担当する企業を分けるというルールもあります。

上下分離のルールは、システム開発の上流工程である要件定義を落札した企業が、第三者が理解できない要件定義書を作らせないという抑止力であります。

しかし、実際には自社で要件定義をしていない案件を設計・開発する後続の企業からすれば要件理解からはじめる必要があるため、たとえしっかりとした要件定義書が作成されていたとしても、キャッチアップにかかる費用をのせる必要があります。

この構造は結果として官公庁の入札案件の費用をあげる原因となっていると考えています。

さらに、このようなケースを損害賠償条項が青天井となっている契約書で締結できる企業となれば案件の規模によりますが国内では限られた企業しか入札に参加できなくなります。企業として信用力が相応に高くないと失敗した時に損害賠償を受けることに耐えられないのです。

以上の条件から、純粋な競争を促すことが目的だとは思えない事態が官公庁案件ではおきているように思います。

 

まとめ

本記事で記載した官公庁案件のシステム調達における条件はほとんどの案件で当てはまります。

しかし、全ての案件が純粋な競争が行われていないというわけではありません。

これらの条件が適切に機能していることもあります。

一方で、かならず入札案件となっているため、調達サイドにシステムに精通している担当者がいない場合には適切なシステム投資が行えません。

うがった見方をすれば基礎検討や要件定義を実施する外資系コンサルティング企業の餌食になっていることが多いようにみえてしまいます。

国内の企業の提案力が弱いということなのかもしれませんが、必ずしも競争入札が適切だとは言えないケースもあります。

官公庁案件のシステム調達ももう少し柔軟に提案を受け入れられるようになった方が良いと考えます。

 

飛込み営業のような提案を受け入れたとしても、結果としてどのような判断で飛込み営業企業の提案をいくらで採用したかを国民に開示する責任のみを果たせば、透明性は確保されると考えます。

その方が、官公庁も、より良いシステムを早く調達できるようになるではないでしょうか。

 

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