シン・テレワークシステムについて構築時のコストに関する記事が公開された。
約100台の「Raspberry Pi」(小型PCボード)と1台のロードバランサーで運用する同システムの開発コストは、わずか「65万円」(登氏)。提供から2カ月で利用者は約4万人(20年6月22日時点)に広がり、これまでテレワーク未体験の企業や自治体に裾野を広げる役割を果たしている。
本記事を読んで約4万人が利用するテレワークシステムを65万円で構築できたと勘違いする顧客企業が出てこないように、この大変安価なコストについて説明しておく。
システム開発のコストの大部分はSE人件費
まず一番重要な点として、本記事の65万円という費用は50台の「Raspberry Pi」のコストであり、システム開発コストの大部分を占めるSE人件費が完全に無視されているのが問題だ。
シン・テレワークシステムは主にスーパープログラマーの登氏がほとんどの開発を行っているのだとは考えられるし、過去の開発成果物を流用しているとはいえ、普通のSEが一から本システムを開発したのであれば、相応の人件費がかかるはずだ。
仮に2週間で登氏が1名で開発したとしても、登氏ほどの開発者であれば人月500万円から1,000万円のコストになる可能性もあるため、2週間を0.5人月と考えればソフトの開発だけでも250万円から500万円は少なくともかかる。
それでも、テレワークシステムを構築すると考えたら安価なことは間違いないが、通常のSI企業ではこんなことは実現しないであろうし、登氏が1名で開発したとも思えないのでこのコストを無視してはならない。
その上で、それだけのシステムを無償提供しているという事実には感謝をすべきであろう。
そして、登氏の「基本的なネット機能は無償で使えるべき」という思想には共感するが、技術の安売りはすべきではないとも思う。
SEは特別な存在
IT業界は国内企業を横並びにみた時にシステム開発ができる人材を豊富に抱えているわりに、SEの給与が高くならないという構造的問題を抱えている。
SEは技術への探求心が強いために、自身のスキルがふるえる開発企業に身を寄せているだけで、SEの技術を安売りして良いということではないのだ。
会社を経営する上でシステムはなくてはならないものになってきている。
そのシステムを支えるSEが安売りされている現状はおかしいと考えるべきだろう。
SEの地位向上なくしてデジタルトランスフォーメーションの実現は難しい。
従って国もプログラミング教育を義務化しようとしている。
将来的に誰でも開発ができるようになり、SEの数が増えてくれば相対的にSEの価値は下がっていくことにはなるだろう。
しかし、それは今ではない。
今回の記事では登氏とNTT東日本、IPAの取り組みによりシン・テレワークシステムは無償提供されているが、これは幸運なことだと考えなければならない。
世界には、SEの好意により無償で利用できるソフトウェアは数多とあるが、これらを有効利用するためにはやはり開発技術が必要となる。
何事も自分で何とかできないのであれば、それに見合う対価は必要だ。
このことを忘れないでいただきたい。
まとめ
シン・テレワークシステムは登氏の技術力により実現している大変稀有なシステムだ。
この仕組みを無償で利用できることは非常に幸運なことである。
一方で、登氏だからシン・テレワークシステムを短期間で安価に実現できているということを忘れてはならない。
IT業界の人月ベースの見積もりではなく、価値ベースの見積もりで考えれば4万人がテレワークをできる環境を提供しているシン・テレワークシステムの金額的価値は計り知れないものがある。
このようなシステムを生み出せるSEの価値はもっと高めなくてはならない。
そして、誰もがSEの価値を認め、システムを有効利用できるようになれば日本経済に必ずプラスの効果をもたらすだろう。