最近は、SaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスが非常に好調のようで、私が勤務する会社でもお客さんからの要望に対してSaaSを紹介することがあります。
例えば、社内の問い合わせ業務で電話がよくかかってきてしまい、電話応対だけで一日の業務が終了してしまい本来やるべき業務が進まないなんて悩みをお客さんが持っていたります。
そこで、お客さんが興味を持つサービスにAIによる問い合わせシステム(Chatbot)があります。
AIにユーザからのよくある問い合わせの大半を任せることで、問い合わせ担当者の負荷を下げて、問い合わせ担当者には別の業務をしてもらうというものです。
ここで重要になるのは以下の2点です。
- ユーザからの電話の問い合わせをやめられるか
- 効果的なChatbot用のシナリオを作成しメンテし続けられるか
では、この2点について少し説明します。
ユーザからの電話の問い合わせをやめられるか
結論から言うと経営トップや問い合わせ対応部門のトップが大鉈を降らないとユーザからの電話での問い合わせをやめることはできません。
というは、従来電話で問い合わせを完結させていた問い合わせユーザからすれば、Chatbotにテキスト入力して問い合わせをするよりも電話で問い合わせてしまった方が早いし、楽だからです。
ただ、それではChatbotシステムを導入しても目的である問い合わせ対応担当者の問い合わせ対応負荷軽減には繋がらないため、問い合わせ用のChatbotを導入するのだから、電話応対はしないぐらいの施策を取り入れないと何も変わりません。
電話での問い合わせ対応を減らした分を次に説明するChatbot用のシナリオ作成に業務負荷をかけるべきです。
とはいえ、Chatbotがすぐに有効な問い合わせ対応負荷削減ツールになることはないため、Chatbotからの問い合わせで解決できない問い合わせを電話応対に回すというのが現実的でしょう。
そして、電話応対に回ってきた問い合わせ内容を吟味してChatbotで対応できるようにシナリオとして登録するかを判断するのです。
そうすることで、Chatbotが有効なツールになっていきます。
大事なことはChatbotは導入初期は有効なツールではなく、しっかりと問い合わせシナリオを登録して運用し続けることで有効なツールになっていくのです。
Chatbotは導入して終わりのシステムではないということをユーザ企業は導入前に認識しておくべきです。
効果的なChatbot用のシナリオを作成しメンテし続けられるか
既に記載していますが、Chatbotを導入しても問い合わせ用のシナリオを組み込まなければ、全く効果を発揮しません。
導入したChatbotシステムにより、問い合わせシナリオの登録方法の作法は異なります。
また、登録するシナリオの検討しやすさもChatbotシステムにより違います。
従って、シナリオを検討する担当者はChatbotシステムの業務運用画面をみて、自分たちでシナリオ作成をし続けることができるかの業務イメージが持てるかを十分に検討した方が良いです。
Chatbotシステムに有効な問い合わせシナリオが登録されなければ、早晩問い合わせユーザの不満が爆発してしまいます。
社内業務であれば、それでも何とかなるかもしれませんが、対顧の窓口にChatbotを利用した場合には、役に立たないChatbotシステム導入は会社の評判を下げるだけになりますので、Chatbotシステム導入では業務運用体制を整えることが最も重要です。
また、実際に業務運用を開始した際には電話で対応してしまった方が問い合わせ担当者は負荷がなかったと感じることでしょう。
これまでと業務の形態が変わっているので当然のことです。
電話で口頭で問い合わせの内容を確認し、回答を伝えるよりもChatbotシステムにテキストベースで問い合わせユーザに回答が伝わるようにするのは、難しいことなのです。
それを踏まえてChatbotシステムでの業務負荷は事前に検討しておくべきです。
さらに、Chatbotシステムの問い合わせシナリオをある程度登録しても、業務の内容が変わるような問い合わせを受けることがあるのであれば、問い合わせシナリオは更新し続ける必要があります。
新しい業務内容に対応できないChatbotシステムの問い合わせシナリオでは問い合わせユーザが間違った業務を実施してしまう可能性を増やしてしまうことになるからです。
おわりに
少し考えれば、前述の2点のことは誰でも理解できることなのですが、なぜか多くのお客さんはシステムを導入すると業務が楽になると考えがちです。
もちろん業務負荷を下げられる局面はあります。
しかし、システムを有効活用する上での産みの苦しみがありますし、その苦しみから目を背けてしまっては目的が達成されません。
そうなると、システム導入にかけたコストが無駄になってしまいます。
ただ、(特に外資系の)クラウドサービスベンダーの営業はこのような業務負荷の話はお客さんから質問しなければ説明しません。
システムを導入する上でお客さんにとって不都合な話は、質問しなければ説明されないのです。
クラウドサービスは自社に合わなければ切り替えれば済みますし、サービスによっては3年契約縛りなんてことにもなっており、クラウドサービスベンダーの営業は販売するのが仕事であるため、導入した後のフォローをすれば良い(営業自身がフォローはしない)と考えているようなふしがあります。
どんなシステムでもそうですが、業務でどのように使っていくかの業務運用をイメージして導入すべきですし、IT会社はその点もお客さんに説明して販売した方が双方にとって良い仕事となると私は考えています。
全てのIT会社の営業が私のような考えでいるわけではありませんし、私も理解のないお客さん(買う意志が見えない相手)に、骨を砕いてまで説明しようとはあまり考えていません。(ケースに寄ります)
明らかに勘違いしていると思えるお客さんにはサービスの使い方イメージを踏まえて説明しますが、何度も説明するようなことはしません。
どうしても問題解決がしたいというお客さんには数回の説明で伝わるからです。
ITシステムは導入目的を明確に定めて、それを実現するための仕組みを整備しなければ十分な効果を発揮することはありません。
IT会社の営業は、成功した事例を華々しく説明しますが、成功に至る過程にはプロジェクトに関わったメンバーの苦労と工夫があり、運用を続けていれば、その苦労と工夫は継続しているのです。
今回はChatbotシステムを例にしましたが、システム導入に関するIT会社にとって不都合な話を書きました。
ただ、この話をお客さんが正しく認識してくれて、それでもシステムを導入したいと思ってもらえるお客さんが本当のお客さんだと考えていますし、そういうお客さんのシステム導入プロジェクトは成功する確率を格段に引き上げてくれます。
そういう状態にお客さんを導くのもIT会社の営業の仕事かなとは考えています。